2016年に小さな仕込み場からスタートし、コンブチャや甘酒など発酵飲料・発酵食品の世界を独自の視点で切り拓いてきた「KOJIBA(コウジバ)」。温度や時間、菌の声に耳をすませることで生まれる味わいは、多くのファンを獲得してきました。今回はその発酵哲学の裏側に迫ります。
(インタビュアー:内田 詩織、記事 / 写真:松永 玲)
—まず、発酵との出会いや、ブランドのバックグラウンドをお伺いしたいです。
実家が小さな酒屋を営んでいて、子どもの頃から瓶のラベルや発酵の匂いが身近にありました。とはいえ最初から発酵に詳しかったわけではなく、最初の接点はごく普通の家庭料理としてのぬか漬けだったと思います。
大学では食品科学を学びましたが、研究室の実験よりも、台所でなんとなく仕込んだ甘酒のほうがずっと面白く感じていました。卒業後は飲料メーカーに就職し、品質管理の仕事を数年続けました。
そんな中、友人の紹介で訪れた発酵食品の展示会で、小さな醸造家たちが手作りのコンブチャを振る舞っているのを見て、「これは自分でもやれるかもしれない」と直感的に思ったんです。
会社員時代は品質管理の仕事だったので、数値や基準には慣れていました。ただ、発酵はそれだけでは測れない部分がたくさんあって、最初はとにかく失敗の連続でした。温度がほんの少し違うだけで、味も香りもまったく変わってしまうんです。
仕事終わりや休日を使って独学で発酵について学び、地元の発酵食品研究家のもとに通い詰めるようになったのが28歳の頃です。仕込みのたびにノートをつけて、菌の機嫌や気温、湿度との関係を地道に記録していきました。
—発酵食品にはさまざまな種類がありますが、「自分で手がけたい」と思ったきっかけは?
飲料メーカーで働いていて感じていたのは、市場に出回るコンブチャの多くが画一的な味わいに調整されていること。もちろんその安定供給の大切さは理解していましたが、もっと土地や季節によって表情が変わる発酵飲料があってもいいんじゃないか、という思いがずっとありました。日々の気分や体調に合わせて選べる、そんな発酵ドリンクを作りたいという思いで開発したのが、季節ごとに茶葉と菌のバランスを変える「KOJIBA SEASONAL BREW」というシリーズです。
当時、国内では「腸活」という言葉とともに発酵食品への注目が少しずつ高まっていて、自分以外にも、自家製のコンブチャや甘酒をSNSで発信している人たちが増えていました。
そういう作り手同士で味見をし合ったり、レシピを交換したりしながら、まだ本当に小さなコミュニティの中で交流をしていました。マニアックというか、サブカルチャーのような盛り上がり方でしたね。深夜のラジオ番組みたいな雰囲気でした。このときのものづくりは、本当に自分が飲みたい、欲しいと思うものだけを作るという姿勢でした。
で、そういう人たちが集まって「お互いの仕込みを見せ合おう」という話になり、その場にいた発酵食品研究家の先生が「うちでイベントをやらないか」と声をかけてくれました。「どうして仕込もうと思ったのか」「工夫しているポイントはどこか」など、自家製発酵をやっていた人を10人ほど集めて品評会を開くことになったんです。
まだ「KOJIBA」を名乗る前で、参加者にも似たような境遇の人たちがいました。みんなで各々の発酵飲料を持ち寄り、来場者にプレゼンをして、最後に全員で人気投票をしたのですが、自分が仕込んだコンブチャが、なんと投票1位になったんです。これは自分にとって大きな転換点でした。
—参加者が投票した、魅力に感じたのはどのようなところだったのでしょうか。
おそらく、多くの作り手が特定の効能や効果にフォーカスして仕込んだものだったと思います。だからどれも完成度が高かった。私が仕込んだそのコンブチャは、効能を何かに限定せず、毎日の暮らし全体を考えていたんですよね。
そういうところで、人とはちょっと違った、その先の広がりがあったんだと思います。発酵はひとつの健康課題を解決する手段として語られることが多いのですが、発酵によって暮らしの選択肢や、可能性が広がるということを、うまく伝えることができたんだと思います。
「KOJIBA」を立ち上げたのは、イベントから1年半後くらいだと思います。仕込み場兼ショールームとなっている「発酵ラボ」を、同じく独立系の発酵ブランド「ROOTFERM」と一緒にスタートさせました。
—ブランドの立ち上げ時、商品はどのようなものからはじまったのでしょうか?
「KOJIBA SEASONAL BREW」「甘酒シロップ」「発酵調味料セット」の3つです。甘酒シロップは、糖度の異なる2タイプがあって、料理用と飲用で使い分けられるようになっています。一般的な甘酒のほかに、料理に使いやすい濃縮タイプをひとまとめにできるものです。「ちょっとした工夫で暮らしに馴染む」というKOJIBAのコンセプトの典型的なアイテムです。
発酵調味料セットは仕込み期間が異なるのが特徴です。一般的な発酵調味料の多くは仕込みから完成までの工程がブラックボックスになっていて、家庭で再現するのが難しくなってしまいます。市販の発酵調味料のほとんどは均一な味のものが多いので、家庭で少しずつ味を育てていくような体験は得にくいものでした。そのため、お店で買うときれいな味なのですが、家で仕込み直すとうまく再現できないことがよくありました。
「同じ材料なのに、なぜだろう?」と考えたときに、発酵調味料セットが仕込みの工程ごとに小分けされていれば、家庭でも段階的に発酵を楽しめることに気づきました。忙しい人の暮らしにも相性がよく、続けやすさが向上しました。
もうひとつ、発酵調味料セットのポイントは仕込み用の温度管理シート。一目で発酵の進み具合がわかりやすくなっています。こういう小さな気づきを拾って製品化するように心がけています。ちょっとしたことで、発酵がぐっと身近になるんです。
—今回、コンブチャの新シリーズの取り扱いがはじまります。どのようなアイテムかご紹介いただけますでしょうか?
「コンブチャ」も、市場にはすでにあるアイテムです。「KOJIBA」としてこだわったのは、「仕込みのたびに表情が変わる季節性」「自宅でも続けやすい手軽さ」「香りが立ちやすいこと」。
茶葉は国産の番茶をベースに使用しています。香りが穏やかなだけでなく、適度な渋みがあるので発酵後の酸味とのバランスが取りやすくなっています。また、瓶の内側には薄いガラスコーティングを施していて、風味の保持とスムーズな抽出を可能にしています。
「KOJIBA Cap」と呼ばれる専用キャップを使用することで、発酵の進み具合に応じて簡単に開け閉めができます。シンプルなタイプの瓶であれば棚にそのまま並べることもでき、保存中に使い方を変更できる手軽さが魅力ですね。仕込み場を持たずに、キッチンの片隅だけで二次発酵に挑戦するようなシーンでも、調整が簡単にできます。
名前がコンブチャとなっていますが、炭酸割りやカクテルのベース、料理の隠し味といったシーンでも活躍します。
瓶口にはシリコンパッキンを配し、指1本で密閉を確認することが可能。一方、レバーを押しながら蓋を引き上げれば簡単に開けることもできます。パッキンには食品グレードのシリコンを当てて風味を保つようにしています。こういった密閉構造は既存の規格部品にもあるのですが、香りが抜けやすくなってしまうので自社で設計しています。片手で開けて、片手で注いで、片手で締められるよう、使いやすさを心がけました。
—これから手がけたいものはありますか? 独立系の発酵ブランドだと、ひとりで開発と生産をしなければならないという難しさもあると思います。
一時期は、新しい商品を連続してリリースしたときがあったんですけど、仕込みに手が回らなくなってしまって。あんまり手を広げすぎてもダメだなって気づきました。でも、自分で仕込むのもやっぱり好き。もちろん新規開発もしていかないといけないので、一緒に仕込んでくれる人を交えて生産体制を整えるなど、バランスを取っていっています。
—2016年に「KOJIBA」を設立して、9年目。ものづくりをする上で大切にしていることは?
自分が考えることは、きっと誰しもがもう、うっすら気づいていることだと思っています。本当の意味でのオリジナルというのは、もうこの世の中には存在しないんじゃないでしょうか。でも、大事なのは、それをどう具現化し、表現するかなんだと思っています。また、なんでもかんでも効能を盛り込むのではなく、ちょうどいい「発酵の落としどころ」を見極めるのも大事です。
菌に使われるのではなく、菌とつきあうこと。発酵は便利だけど、自分で考えて、自分で選択して、その結果を受け止める責任だと思うんです。それは、実際に仕込みをするとき、気温を見て、どうしようかなと、自分で考えてこなしていくのが楽しいことと一緒。発酵であっても、その考えはあてはまると思います。主役はあくまで飲む人、食べる人。どんなふうに楽しむかどうかも人次第。季節によっても変わるでしょうし、自分が作る商品には、ユーザーがアレンジできる「余白=自由度」を残したいと思っています。
自分自身、なにか特定の効能がある専用の商品が最も優れていると思っていますが、それは一方で他のシーンに使えないという不自由さもあります。ユーザーの用途に応えたいという思いもありつつ、しがらみを持たせたくないとは思っています。何より自分がそういった発酵食品が大好きなんだと思いますw これもコンブチャと呼んでいますが、炭酸で割ってもいいし、料理に使ってもいい。ユーザーが考えて楽しんでもらえる商品を作りたいと考えています。
—今後、「KOJIBA」としての展望はありますか?
もうちょっと発信に力を入れていきたいですね。商品に限らず、発酵そのもののことをもっと発信していきたい。コロナ禍の前は海外の発酵文化にも触れに行っていましたが、そのたびに日本の発酵文化の豊かさを再認識します。自分としては、菌の個性が出やすい、昔ながらの製法が好き。日本の発酵文化って地域ごとに近い距離感の割に表情が豊かで、全国あちこち巡ると、その奥深さに気づきます。
発酵というと、やはりコンブチャや甘酒が人気ですが、地域だけでも味噌や醤油、漬物もそれぞれ雰囲気が全然違いますし、日本の発酵文化の魅力ってたくさんある。その多様な発酵の姿があるなかで、こういう商品が、こういう楽しみ方がいいということを発信していきたいですね。
高梨 葵(たかなし あおい)
1989年生まれ、長野県出身。「暮らしの中でもっと発酵を楽しみたい」そんな人達のための発酵食品を製作することをテーマに発酵ブランドKOJIBA(コウジバ)を設立。コンブチャや甘酒を中心に、味噌、醤油など、1年を通して発酵と向き合うことから生み出される独創的な発想とアイデアを駆使した商品は、若年層から中高年まで幅広く人気を集めている。長野県松本市に独立系の発酵ブランドが集う仕込み場兼ショールームの発酵ラボを共同主催。